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  • 2013.08.30 Friday
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屑を囲む火災報知器04

ロドリゴもハンスも今や只の一農民であった。
しかし侮る勿れ。彼らは産まれついてのマルクス主義者だ。
この種モミが何時か実になれば、其れが第Y次世界大戦の合図だ。
ハンスは青森であおり21をベースにした新種のリンゴを、ロドリゴは鳥取か島根でイネ科の何かを栽培していた。
イネ科の何かを何かと何かで何かさせ何かにした何かを培養する何か、いやさロドリゴ。
一方ハンスは品種改良のマイコー・ジャックスン的螺旋階段に陥っていた。
数年前から熱帯と化したジパングとの適正を求むる余り、いつの間にか彼のリンゴはバラ科リンゴ属の域を逸脱した。
有事の際にはこいつを使えばいい。
不幸中の幸と云うべきか、ハンスは「手段」を手にした。

ミゲルはどうした。
ミゲルはサイヴォーグとなって生まれ変わった。
脳髄一ツのみ残し、自律神経は全てアルゴリズム化し、呼吸、消化、代謝、排泄その他は全て不要である。
機能過多の為、身の丈凡そ六尺の大男になってしまったものの、顔は当にミゲル本人である。
肝要なのはエネルギーだが、一般的な9Vの角形電池2本で良い。アナログ感を出すためにマンガン電池を使用する事をお勧めする。
ミゲルは復活した。ヨハネの福音書に拠るところのラザロの再来である。
しかし終焉はたった一週間で訪れた。
アップデートしようとパッチを当てるために自らを再起動したところ、シャットダウンした時点で脳死した。
身内の者だけでしめやかに葬儀が行われた。棺の中には脳髄一ツが黒っぽく変色した状態で置かれていた。

ミゲルの死の報がヨーゼフに伝わったのは其れから2ヶ月も後の事だった。
ヨーゼフは老荘思想を勘違いし、雲南省で座禅を組み宇宙との一体化だとか不老不死だとか嘯いていた。
伝令は言った。
「アンダルシアのミゲルが細胞具を手中に収め、NO死したとの事」
果たして其れは化学兵器か生物兵器か、若しくは無力化ガスのような向精神的兵器なのか、兎も角ミゲルは勝利宣言を発令したのだ。
一度は文化闘争について盃を酌み交わした仲、然し少しばかり遁世していた間に着々と。
況や道の道に入った身に、死せずと断言される等、ヨーゼフは我慢ならなかった。
「退かぬ!媚びぬ!省みぬ!」
何処かで聞いたような台詞を吐き捨て、ヨーゼフは立ち上がった。

異常なまでの静寂に横たわる死への緊張。
偶像崇拝としての「何もない」は禁じられた遊び(スカンジナヴィアン・パワー・ヴァイオレンス)。
生態学と商業主義の関係は、近代のパンクと資本主義の関係と似ている・・・。
そんな想いを馳せながら、ハンスは気付いてしまった。
可笑しい。
何ヶ月も此処に居るが、一度たりとも真鍮の鐘の音が聞こえてこない。
そう言えばマイエンフェルトにしてはリンゴが美味い。
年賀状を見て、今更其処が故郷でなく青森である事を知ったハンスは発狂した。
ずっと0から出直しだと勇んでいたが実はもう10だった事実。
ハンスは一人で「手段」を使用した。

ネオリンゴは肥大化を繰り返し、反復し、回転し、また複製する、Do While 殲滅。
言わずもがな其れは只の植物である。只の有機物であり、化合物である。
しかし世に蔓延した自己増殖する価値の運動体を取り込み、まあ、噛み砕けばグローバリズムの功罪となる。
取り敢えずハンスは半ば発狂して中央線に飛び込んだ。
飛び込んだが生憎先客がいらっしゃったので、総武線に飛び込んだ。
飛び込んだが生憎総武線は中野止まりで、「AxSxA 我 YA」の線路上には、号泣しながら今か今かと待つハンス独り。
飛び込んだが生憎ハンスはおまわりさんフロムトーキョーに連行され、こっぴどく説教を喰らった。
飛び込んだ言い訳として「ダムドとソドムがマストドン」とか陳奮翰奮な事を呟いていたので、見事にハンスは牢屋で年を越した。

屑を囲む火災報知器03

ラテン独自の異常なまでの祝祭性と、カトリシズムに基づいた呪術的感覚。
つまりファンク・カリオカとグレゴリオ聖歌のポリフォニーにより、高井戸はもはや陥落寸前だった。
ミゲルの生命反応は皆無だったが、腐敗どころか元気にレバ刺しを食している。
高井戸は廃墟と化したが、ハンスは国外へ逃亡し、ロドリゴは島根か鳥取かに身を潜めた。

新種の黒死病だ。ストレプトマイシンは効力無く、鼠が大量発生しているわけでもない。
ヌーヴォー・ペストはこの国の文化だけを出鱈目にした。ミゲルの策が成ったというわけだ。
全てが、さかさまになった。
テレビの音楽番組では、男女2人がコンパクトエフェクターを投げ合いケーブルでしばき合っている。
その後ろでは男か女かもわからない長髪の人間10人がドラムを乱打している、否、内2人は解体しているだけだ。
それを見て司会も観客も大喜びだ。いい世の中になったもんだ、とヨーゼフは呟いた。


ロドリゴは、てっきりハンスが高井戸に潜んでいると思い込んでいた。
最後の手段だ。島根か鳥取かから、高井戸に向けてロドリゴはV2ロケットを発射した。
されども如何せん改良型とは言え、島根か鳥取から東京まではV2の射程距離外である。
済まない名古屋、そう思ったロドリゴだったが、奇跡が起きた。
燃料ガスの混合率、推力偏向板の微妙な角度、偏西風、アナログコンピュータのアルゴリズムの奇跡的な間違いにより、
まあ何だかよくわからないが東京に達した。
「ウォー・アンサンブル!!!」
ロドリゴは喜んだ。喜び勇んで畑仕事に戻った。

ロドリゴが勝利を高らかに宣言した頃、ハンスは日本海を彷徨っていた。
ハンスはてっきり生まれ故郷のスイスに向かっているつもりだったが、見事に青森に流れ着いた。
潮流に乗ってジパングに戻ってきてしまったのだ。
また一からやり直しだ、そう決心したハンスだったが、リンゴが故郷よりも美味しい事には気付きもしなかった。

四畳半の10LDDKKKに居を構えたヨーゼフは、テレビを只管見ていた。
ワイドショーではアナウンサーが悲報を笑い、朗報に悪態を吐いている。
ヨーゼフは言う。
「文化は壊滅した。しかしどうだ。否定の螺旋を下ることは果たして本当に真理に辿り着くのか。いや、ない」
ソクラテス思想の問題点宜しくキルケゴール的観点に至ったヨーゼフは、重い腰をあげた。
執拗なイロニーは何も産まないのだ。
ヨーゼフはダダを捨てた。

V2ロケットは杉並区を飛び越えた。
混合燃料のアルコールをテキーラ100%にしたためか、酩酊した軍事用ミサイルは画して東京都の中心部にあるドーム型の建物を爆破した。
其処では同じ顔をした男性2人ないし3人×50組程が集って自らの演芸を披露する集会をやっており、5万人の聴衆が大爆笑の坩堝だったが、敢え無く全員爆死した。
ロドリゴは18時のニュースで自らの作戦の失敗を知った。アナウンサーの「500万人の死傷者」という過剰表現を聞き、ロドリゴは悲しんだ。悲しみに暮れて畑仕事に戻った。

屑を囲む火災報知器02

あれから半年以上が過ぎた。
ヒトラーもムッソリーニもフランコも東條英機も亡き今、ハンスはすっかり覇気をなくし、下北沢の一角で恋愛ばかりをギターに乗せて歌っている毎日だ。
殺人アリのアルカロイド毒は流行と共に廃れ、ハンスはM.E.L.Iよろしくブルーカラーとなっていた。

雪の日だった。いや、霙と云うべきか?
初老の男がハンスに声を掛けてきた。
「ディープなパープルとピンクなフロイド、一体どちらを好むのだ」
それはベツレヘム裏世界の暗号。時が来たのだ。
「レッドなクレイヨラ」
ハンスが世田谷のアル・カポネに就任するというその刹那、小田急線のホームから咆哮が鳴り響いた。
「ブルーなチアーだ!」
ロドリゴだ!アンダルシアからやってきたのだ。

ヨルダン川に面した白い家に、ヨーゼフは住んでいた。
マリネッティの宣言文を暗唱しながら自作のベッドに横たわり、只々世を憂う。
人々は一体何時まで涅槃に寄り掛かりたいのか…
「POPすなわちPIG OR PxSxx!」ヨーゼフは飛び起きた。
核心に辿り着いたのだ。エウレカというやつだ。
何者だ?ジパングのKITA-ZAWAシティにいた筈の初老の男がヨーゼフの前に立っていた。
「既にシュルレアリスムは崩壊している。特に此処ジパングに於いては」
否、此処はユダの町ぞ。肉の家ぞ。
「ついてこい。文化レジスタンスの始まりだ」

ハンスとロドリゴのアナボル論争は偶発戦争へ発展し、下北沢は廃墟と化した。
ハンスは成増を、ロドリゴは狛江を制圧し、本拠地とした。
当面の争いは、環状八号線を占拠する事。
高井戸だ。高井戸へ向かえ。
意気揚々と互いに先発部隊が出発したが、高井戸を過ぎると通信が途絶えた。
高井戸だ。高井戸に何かある。
成増ベツレヘム軍、狛江アンダルシア軍は共に驚愕した。

ヨーゼフはグラインド府中に流れ着いた。
確かにグローバリゼーションと独自の排他性。文化のショウビズ化及びアメリ化。
動線はしっかりしているがロボットのようだ。
徐ろに駅のゴミ箱を漁ると、何だ、オープンリールか?
死海からの贈り物だった。
みどりの窓口にて再生すると、ミゲルの断末魔が聞こえた。
あの初老の男の声だった。

屑を囲む火災報知器01

「俺の羊は世界一だ」
ヤーコブはヨーゼフの掘っ建て小屋に着くなり、ハンスに掴み掛かった。
確かに彼の羊は只の羊ではない。ベツレヘムではメリノ種はオリジネイターでは無いものの、今と相成っては貴重である。
しかしハンスの見通しは暗い。失業率も65%に達しているのだ。
「どうだ、貴様の其の羊公、俺のジャムナバリ種と交配せしめん」
傍らに頓挫していたヨーゼフは其れを良くは思わない。当然だ。ジャムナバリは山羊では無いか。
「自己表現だ。完膚無き自己表現を此処に宣言する」
画してベツレヘム・ダダが此処に誕生した。

死に行くミゲルの手を握り締め、TASCAM 85-16Bを回しながらロドリゴは聞いた。
「我々もまた産業動物であるという観点から、ポスト・モダンがもたらした功罪とは」
誰もが唾を飲んだ。ロドリゴはとうとう確信に触れたのだ。
抑もポスト・モダン自体が功罪であるか否かという論争はさておき、「ポスト」であるが故に「ポスト」は何らかの過去の記憶を参照しているのであり、詰まるところラバやケッテイは馬を越えない。
ミゲルは何も答えない。皆が沈黙し、シギリージャだけが悲しげに響き渡る。
痺れを切らした『毛むくじゃらの』アレハンドロは少し声を荒立てた。
「結局俺達はスイサイダル・テンデンシーズなんだ!」
成る程的を射た意見だがしかし其れではまだサピア=ウォーフの仮説内だ。
煮詰まってきた。ドクサが皆の頭を支配し離さない。
突如ミゲルが口を開いた。少しピッチシフトされた声で、ミゲルは断末魔を上げた。
「結局俺達はスイサイダル・テンデンシーズなんだ!」
オープンリールは回り続けていた。

数年後、ベツレヘムの未来派は一気に収束していた。カリスマの不在が大きな理由だ。
中心人物であった筈のハンスはファシズムと迎合、今では殺人アリのアルカロイド毒を商売にしている。
有性生殖システムにおける極々一般的なエラーから、件のコンパニオンアニマルは5時間34分で死滅した。
ヨルダン川の畔を途方に暮れたヤーコブが歩く。
貴重であったメリノ種は絶滅し、結局仕事は無くなった。

川上から何か流れてきた。オープンリールだ。
アンダルシアからの贈り物だろうが今のヨーゼフは最早プラグマティストに他ならない。
フラメンコの変拍子に乗ったスパニッシュ・ニュースクール・ハードコアは画して誰の目にも留まることなく死海へ辿り着いた。

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